人件費の高騰著しい中国。
特に北京、上海、広州、深センなどの地域では、既存社員の昇給率が市場の人件費上昇率に追いつかず、新入社員の給与が既存スタッフの給与を上回ってしまうといった、日本のバブル期にも見られた現象が少なからず生じています。
既存社員のモチベーションや全体のバランス維持のためにも、ここ最近の給与動向について、ある程度把握しておく必要がありそうです。そこでまずご紹介したいのが、【図1】の最低賃金推移です。
ここでは上海市の最低賃金推移を示しておりますが、上海市に限らず中国全土において、最低賃金は軒並み上昇傾向にあります。上海市においては、2004年の635元に比べて2014年では1820元と、ここ10年で約3倍も上昇していることがわかります。また金融危機によって調整が無かった2009年を除き、2007年以降は前年比2桁のペースで最低賃金の上昇が進んでいます。
しかしながら、新卒採用での就職を希望する若者たちが、最低賃金でも良いから就職を望んでいるかといえば当然そんなことはありません。大卒就活生とその両親のリアルな願望を反映した面白い統計がありますのでご紹介します。
《2014年上海市大卒者父兄調査報告》
国家統計局上海調査総隊 2014年7月14日公表
本報告は、大卒就活生を子に持つ457名の上海市の父兄に実施したアンケート調査の結果です。
【図2】にて示されているのは、父兄が子女に対して希望する就職先と、就活生本人が希望する就職先との比較を表したものになります。
何よりもまず、外資企業を除く民間企業、即ち中国ローカルの企業に就職させたい父兄は全体のわずか4.4%である点が注目されます。また、公的機関、即ち公務員になってほしいと願う父兄は子女の割合より10%高く、外資企業に対しては子女の割合より10%以上低いことなどから、多くの父兄は、子女に対して安定した職に就いてほしいと考えているようです。
さらに、公務員出身、国営企業出身の父兄のうち、それぞれ62.5%、45.7%が子女にも同じ道を歩ませたいと回答したことに対して、民間企業出身の父兄においては、5.8%のみが同じく民間企業に就職してほしいと回答したとのことです。このとこからも、父兄の子女の就職先に対する安定志向がうかがえます。
次に、【図3】について解説します。こちらは、父兄が重視する子女の就職先の条件に対する回答です。
最も回答が多かった条件は「給与及び福利厚生」で、これに「将来性」が続く形になりました。この結果は、子女のアンケート結果とほぼ一致したとのことで、父兄、子女ともに、待遇面と将来性を重視していることが見て取れます。
本アンケート調査から導かれる子女の給与額に対する父兄の希望額は約4,900元/月とのことで、これは子女の希望給与額4,500元/月と大差無いとの説明が本報告に記載されています。また、大卒新入社員が実際に契約を締結した初任給の平均は約4,350元であり、「父兄の希望額は実際の給与額と近い水準にあり、比較的理性的だ」との評が書き加えられています。550元の差額が近いか遠いかは受け取り側の主観に委ねられますが、統計局としては、そういう書き方をしたようです。
次回後編では、全国35万人の大卒者向けアンケート調査結果から、新社会人の給与動向と消費志向などを更に掘り下げて解説致します。4,350元、手取りにして約3,600元という平均初任給は果たして妥当なのでしょうか?次回のブログ掲載をお楽しみに。
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執筆者:
李 彦成(リ・エンセイ)
HIKOYOグループの統括部長。遼寧省瀋陽市出身の中国朝鮮族。
3歳から22歳まで日本で過ごし、中央大学法学部を卒業後、2009年から上海に拠点を移す。
日中両国にバックグランドを持つ独自の観点から、中国ビジネスの客観的な分析を得意とする。
毎年うだるような暑さが続く上海の夏ですが、今年は例年ほど気温の上昇が見られず、記録的な冷夏ともいえる日々が続いております。
それでも、毎年この季節になると、多くのお客様から「高温手当」(中文:高温津贴)についてのご相談を頂きます。オフィスワーク中心の企業にはあまり馴染みが無いかもしれませんが、毎年6月から9月にかけて、特に工場勤務の現地従業員と、雇用主である企業から大きな注目を集めるトピックです。
高温手当とは、炎天下での業務に従事する労働者に対して、企業が支給を義務付けられている特別手当を指します。その始まりは1960年公布の《防暑降温対策暫定弁法》(中文:防暑降温措施暂行办法)とされますが、同法の適用対象はごく限られた一部であったり、適用基準となる明確な気温も、企業の法的な責任も規定されておらず、注意喚起程度の役割に過ぎませんでした。
この法律はそれから50年以上も改正されないままでしたが、炎天下作業による死亡事故が増えたこと、労働環境や社会的環境の変化に対応できていないとの声が高まったこともあり、2012年、《防暑降温対策管理弁法》(中文:防暑降温措施管理办法)の公布を受け、廃止されました。
実はそれ以前に、2007年6月8日付で、《職場における夏季の防暑降温対策の強化に関する通知》(中文:关于进一步加强工作场所夏季防暑降温工作的通知)が中央政府から打ち出され、“最高気温35℃以上の露天作業者と、職場の気温を33℃未満にできない環境下にある労働者”に対して、使用者たる企業が高温手当を支給しなければならないと、初めて規定されました。
同時に、当該通知において、“高温手当の具体的な支給基準は省レベルの地方政府または労働保障部門が制定する”としたため、これを受けて上海市では2007年7月11日に《上海市企業の高温季節手当基準に関する通知》(中文:关于本市企业高温季节津贴标准的通知)を公布しました。当該通知は2011年に改正され、現在のところ、上海市では2011年の規定が適用されることになります。
では、上海市企業に課せられる高温手当支給の義務は、具体的にどのように規定されているのでしょうか。
《上海市企業の高温季節手当基準の調整に関する通知》
(中文:关于调整本市企业高温季节津贴标准的通知)
2011年7月11日公布
【条件1】
6月~9月の4ヶ月間、高温下の露天作業者と、職場の気温を33℃未満にできない環境下にある労働者に対して、1ヶ月あたり200元の手当を支給しなければならない
※2007年版では、露天作業者の場合は35℃以上という規定があったが、これが削除された。
即ち、気温に関わらず露天作業者には必ず支給しなければならない。
また、2007年版では支給基準が1日あたり10元だったが、1ヶ月あたり200元に調整された。
2007年版は、基準の気温に達した日のみ10元の支給だった規定が一律200元に調整されたため、労働者にとっては有利。
【条件2】
清涼飲料水を提供しなければならない
※高温手当200元からの控除は不可
判断が別れるケースとして、通勤時間の扱いはどうなるのか、クーラー完備の事務所作業と工場などの現場作業を兼任する労働者はどうすれば良いのか、4ヶ月間に欠勤があった場合の扱いはどうなるのか、などが挙げられます。
これらのご相談は当社まで直接お問い合わせください。執筆者の李彦成がお答えさせて頂きます。
地方ごとに基準が異なり、法的解釈が複雑な高温手当ですが、誤った運用をしてしまうことで労使紛争の火種となるリスクがあります。また、上述の《防暑降温対策管理弁法》の施行(2012年5月16日)から、同法に違反した企業の法的責任が明記されるようなり、最悪の場合は刑事責任まで負うことになります。
これらのリスクを回避するためにも、当社の持つデータベースとノウハウを是非ご活用ください。
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執筆者:
李 彦成(リ・エンセイ)
HIKOYOグループの統括部長。遼寧省瀋陽市出身の中国朝鮮族。
3歳から22歳まで日本で過ごし、中央大学法学部を卒業後、2009年から上海に拠点を移す。
日中両国にバックグランドを持つ独自の観点から、中国ビジネスの客観的な分析を得意とする。
HIKOYOグループの統括部長を務めております、李 彦成(リ・エンセイ)です。
弊社は、本日より自社ブログを開設します。中国法律を熟知したコンサルティングファームであるHIKOYOだからこそ配信できる現地の情報を「中国ビジネス最新レポート」と題してお届けします。中国最新法律・政策のご紹介、経済・ビジネスの動向、社会的ニュース、中国生活に関するコラムなどを定期的に配信いたします。
弊社クライアント様、サイトご訪問者様をはじめ、中国ビジネスに関心をお持ちの皆様にご満足頂ける記事の配信を目指し、誠心誠意努める所存です。今後とも弊社Webサイトをご活用頂ければ幸いでございます。
▼ 配信予定記事の一覧
第1回 上海市高温手当について
第2回 アンケート調査からみた新社会人の給与動向
第3回 大流行のタクシーアプリは善か?悪か?
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執筆者:
李 彦成(リ・エンセイ)
HIKOYOグループの統括部長。遼寧省瀋陽市出身の中国朝鮮族。
3歳から22歳まで日本で過ごし、中央大学法学部を卒業後、2009年から上海に拠点を移す。
日中両国にバックグランドを持つ独自の観点から、中国ビジネスの客観的な分析を得意とする。